GDPの1%を気候変動対策に スイスで3月国民投票、どんな内容?
スイスで3月、経済力に連動させて予算の一部を気候変動対策に充てることを国に義務付ける案が国民投票にかけられる。どのような内容なのかをまとめた。
おすすめの記事
「スイスのメディアが報じた日本のニュース」ニュースレター登録
「気候基金」創設案、どんな内容?
スイスでは毎年約4回、国民投票が行われ、市民や政党が提案した憲法改正案などの是非が問われる。3月8日の国民投票にかけられる提案の1つが、「気候基金イニシアチブ外部リンク(国民発議)」だ。
おすすめの記事
イニシアチブとは?
これはスイスに「気候基金」を創設し、国内総生産(GDP)の0.5%から1%(約40億〜80億フラン=8000億~1兆6000億円)に相当する額を毎年、連邦予算から基金に拠出することを求めている。この基金の支出先は気候変動対策に限定し、特に温室効果ガス排出量の削減、再生可能エネルギーの拡大支援のほか、二酸化炭素回収・貯留(CO₂回収・貯留)、生物多様性の促進事業に充てられる。
提案したのは誰?
左派政党の社会民主党(SP/PS)と緑の党(GPS/Les Verts)だ。立ち上げたのは2022年9月で、正式名称は「公正なエネルギー・気候政策のために:繁栄、雇用、環境への投資」。2022年は、1864年の観測開始以来、スイスで最も猛暑となり、3度の熱波と長い干ばつに見舞われた。
おすすめの記事
スイスの気温上昇、世界の2倍で進む その理由は
社会民主党と緑の党は、気候と生物多様性を保護する責任を国民個人に負わせるべきではない、と訴える。だからこそ「気候基金」という大規模な公共投資を発動し、再生可能エネルギー源の促進や、エネルギーの国内生産の増強に充てるべきだと訴える。
届け出から18カ月以内に10万2000人以上の署名を集め、国民投票にかけることが決まった。憲法改正案のため、可決には有権者の過半数の賛成のほか、州の過半数の賛成も必要となる。
可決された場合のメリットは?
イニシアチブ賛成派の訴えるメリットはこうだ。連邦政府が資金を提供する新たな基金は、太陽光発電パネルの設置拡大など再生可能エネルギーの開発を加速させるだけでなく、動植物の生物多様性の保護を促進する。建物のエネルギー効率向上や公共交通機関の拡充にも基金は活用される。
数十億フランの支出を惜しんで何も手立てを講じなければ、結果的にはもっと費用がかかる、と賛成派は訴える。近年スイスではブラッテン、ボンド、マッジャ渓谷で地滑りなどの大規模な自然災害が頻発している。今日、気候基金を立ち上げなければ、将来的には気候・災害対策に4~5倍のコストがかかる。
また、エネルギー転換に投資することで、原油産出国へのスイスの依存度を軽減できると主張する。スイスでは、エネルギー生産の約70%を石油や天然ガスなどの輸入化石燃料が占める。ロシアのウクライナ侵攻を機に、独裁国家の多い産油国に依存することへの危機意識が強くなった。
賛成派はまた、気候変動基金は持続可能な雇用も創出すると強調する。例えば、太陽光発電設備業界では熟練労働者が不足している外部リンク。
気候基金に反対しているのは誰?その理由は?
連邦政府と議会は、この提案に反対している。政府は、国の気候目標を達成するのに気候基金は必要ない、という立場だ。連邦政府と各州はすでに、気候変動とエネルギー対策に年間約20億フラン、生物多様性の促進に6億フランを充てている。
議会でも、左派・緑の党を除く全主要政党が反対した。費用がかかりすぎ、なおかつ効果がないとの判断からだ。気候基金への支出は債務ブレーキ(関連記事はこちら)の対象外となる。このため議会と政府は、気候基金は公共支出の無制限な増加につながると主張した。そのしわ寄せを食うのが国民で、増税のリスクも生じる。また、基金の資金使途について、どの分野に具体的にいくら使うのかという具体的な基準がないことも懸念材料だとした。
議会と政府は、スイスは現在の気候政策を継続し、エネルギー効率向上へのインセンティブや化石燃料の規制など、幅広いアプローチに注力し続けるべきだと考えている。
現在スイスでは気候保護にどのような資金が投入されている?
スイスの気候変動政策における主要な財源は二酸化炭素(CO₂)税だ。これは、建物の暖房や発電に使われる化石燃料(暖房用燃料、天然ガスなど)に課税される。1tあたり120フラン(約2万4000円)で、金額としては世界で最も高い部類に入る。
税収の一部は、「建造物プログラム」の資金として使われる。外部リンクこれは政府のプロジェクトで、国内建造物のエネルギー消費量を減らすことを目的としている。例えば断熱性の向上や、老朽化した暖房設備を再生可能エネルギーシステムに置き換える際に資金が使われる。2024年の拠出額は約5億2800万フランだった。外部リンク
一方、2023年の国民投票で承認された気候保護法は、住宅や建物のエネルギー改修に対し、10年間で20億フランを追加融資すると規定している。建造物は温室効果ガス排出量の約4分の1、エネルギー消費量の40%を占める。外部リンク気候保護法は、20250年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにすると定めている。
太陽光発電に関しては、連邦政府は山岳地帯における大規模太陽光発電所(メガソーラー)の建設を助成している。州や一部の自治体も、自宅屋根に太陽光パネル設置を希望する世帯に補助金を出している。2023年には、連邦政府は太陽光発電促進に関し約6億フランを拠出した。外部リンク
スイスの再生可能エネルギーの浸透度は?
スイスは、電力の約70%が再生可能エネルギー、特に水力発電が多い。国のエネルギー戦略では、2050年までに特に太陽光発電の促進、規模はそれよりも小さいが風力発電の開発を目指している。これは脱原発(現在は電力の約4分の1を供給)を補うためでもある。
スイスにおける太陽光発電量は2015年から2024年の間に433%増加し、現在では国内の電力需要の約10%を賄う。アルプス山脈の太陽光発電所に加え、国内では住宅やショッピングセンターの屋根やファサードなど、既存インフラへの太陽光パネル設置が進む。
ジュネーブ州など一部の州では、既にすべての新築建物の屋根に太陽光発電パネルを設置することが義務付けられている。最近では、この義務付けを全国の新築および改築建物に拡大することを求める国民発議も出された。
おすすめの記事
パリ協定10年 再エネ拡大の勢いに陰り
編集:Samuel Jaberg、英語からの翻訳:宇田薫、校正:ムートゥ朋子
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。